共同通信のジョジョ問題に関する記事について
以下に書くことは23日付のエントリでも指摘していることなのだが、あまり問題にもされていないようなのでよりはっきりしたかたちで改めて書く。
この件に関して現時点でもっとも問題だと思われるのは集英社の対応でもイスラムからの反応でもなく、大元のソースと思われる共同通信の配信記事が国内向けと英語版でまるで違っている、という点だ。
英語版
Publisher to suspend cartoon sales after Muslims say it insults Islam
http://www.japantoday.com/category/national/view/publisher-to-suspend-cartoon-sales-after-muslims-say-it-insults-islam
国内向け
日本アニメ、中東で非難 「コーラン読み殺害指示」
http://www.47news.jp/CN/200805/CN2008052201000102.html
異文化への無知で波紋 ネット通じ思わぬ視聴者
http://www.47news.jp/CN/200805/CN2008052201000448.html
一読してもらえばわかるが、日本語の記事には私が23日に紹介した具体的なイスラムの反応とエジプトのキリスト教徒の感慨の記述がほぼすべてそぎ落とされている。辛うじて「イスラム教スンニ派教学の最高権威機関アズハルの宗教勧告委員長アトラシュ師」のコメントが削減されたかたちで残されているくらいで、私が紹介していないアル・ジャジーラ掲載(5/25修正:読み返してみたらアル・ジャジーラの記者が自分のサイトで書いたってことらしい)の非難の記述なども含め、情報量的には半分以下になっているといっていい。
この英語版配信記事はすでに別な英字新聞Japan Timesでほぼ同内容の記事「'Anime' stokes ire of Muslims」(http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20080523a1.html)が出ている他、無数のブログやフォーラムに転載されてもいる。当然アラブやヨーロッパの各言語の報道もこの「英語の」記事を元におこなわれるはずで、実際国内の新聞報道もこの「英語の」記事から情報を切り貼りするかたちでつくられていると思われる。以下に日本の主要メディアでの報道を列挙するので読み比べてみることをお勧めする。
時事通信
人気漫画「ジョジョ」一部出荷停止=イスラムめぐり不適切表現−集英社
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200805/2008052200696&rel=j&g=soc
「コーラン」登場の批判、昨年から=数百のサイトに−アニメ「ジョジョ」
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008052201009
朝日新聞
アニメのコーラン描写「不適切」 集英社が一部出荷停止
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200805220115.html
毎日新聞
ジョジョの奇妙な冒険:DVD作品にコーラン不適切表現 出荷停止へ
http://mainichi.jp/enta/mantan/anime/news/20080522mog00m200008000c.html
日経新聞
日本のアニメ、中東で批判・集英社、DVDなど出荷停止
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080522AT1G2201622052008.html
讀賣新聞
「ジョジョ」DVDにコーラン落ちる場面、集英社が出荷停止
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20080522-OYT1T00371.htm
産経新聞
日本アニメ、中東で非難
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/game/080522/gam0805221746001-n1.htm
日刊スポーツ
「ジョジョの奇妙な冒険」に中東で批判
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20080522-362998.html
サンケイスポーツ
日本のアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」に中東で非難の嵐
http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200805/sha2008052301.html
なぜこの情報の落差が問題なのかといえば、日本製品不買運動や制作者の意図への非難の記述はイスラム側の怒りも非イスラムの反感もともに煽る働きを持っているからだ。具体的にはJapan Todayの記事につけられたコメントを読んでもらうのがいちばんよいが、英語を読むのが面倒なら23日付の私のエントリにつけられたブックマークコメントを見てもらうだけでもなんとなくそのことはわかるはずだ。
グローバルスタンダードな英語記事には対立の構図を煽る記述が存在し、国内向けの報道ではその部分がことごとくうすぼんやりしたかたちでしか書いていない。仮にこの英語報道の論調がヨーロッパメディアで「表現の自由の危機」と大々的に報道されたり、逆にアラブ圏でより大規模なジャパンバッシングを誘発したらどうするのか?
この問題が「問題化」するかどうかは実際には欧米やアラブ圏の大手メディアでどう報道されていくか(あるいはまったく報道されないか)にかかっていると思うので一概にはいえないが、この第一報の時点で完全に一方の当事者である日本国内向けと海外向けの報道のあいだにこのような情報格差をつくるのはほとんど「将来自分が引っかかるためのブービートラップをわざわざ仕込んでいる」に等しい。
前の記事が不必要に注目を集めたため、私自身が煽ったかたちになっているのであまり偉そうなこともいえないが、私個人の意見に共感するとか反発するとかいったことはどうでもいいので、誰によらずこの件に関しては今後の海外メディアの動向をキチンと注視してほしい。