アメリカの警察や検察は暇だとしか思えない

永山さんと昼間さんの『マンガ論争勃発のサイト』「(財)日本ユニセフ協会インタビュー【第3回】アメリカ司法省「警察はそれほど暇じゃない」」から

−−単純所持禁止の問題についてはどうお考えでしょうか? 例えば警察による恣意的な運用が行われることの危機が指摘されています。

中井さん:そういった危惧が出てくること自体、児童ポルノが蔓延していることの裏返しではないでしょうか。
 アメリカ司法省に恣意的な運用の問題について尋ねたことがありますが「警察はそれほど暇じゃない」との回答でした。

で、その実際の検挙事例。
『FBI ― Federal Bureau of Investigation Homepage』のプレスリリースから。

2年前、ドワイト・ワーレイ(Dwight Whorley)はヴァージニア州リッチモンド職業安定所をオンラインでの求人情報を求めると称して訪れた。しかし、実際には彼は州のコンピュータを使い、児童ポルノ行為を写実的に描いた日本産「アニメ」をダウンロード、送信していた。
この行為は2003年制定の連邦猥褻法の規定により違法である。この法律は児童への性的搾取から子どもを守るためにつくられたもので児童に対する性的虐待を描いた絵画、マンガその他のあらゆる図像表現の制作、配布を連邦犯罪と認めるものである。
「PROTECTING OUR CHILDREN Virginia Man Sentenced in Landmark Obscenity Case」

この兄さん、わざわざ職安でエロ画像プリントアウトして、そのプリントアウトを見た職員の通報でFBIの内偵がはじまったらしいので、なんというか「間抜けな話」だとは思うのだが、その「間抜けな話」への求刑が懲役20年と罰金$7,400だ。
このプレスリリースでFBIは使用されたコンピュータから該当の日本産アニメのログを押収し、わざわざ言語学者に翻訳させて「じゅうぶんに写実的であり、描かれている通りのものであることに偽りはない」などと自慢げに保障させている。
その他にもこのコンピュータからはざくざくチャイルドポルノのログが出てきたらしいのだが(消せよ)、こういうケースを大真面目に「児童への性的虐待」として起訴するのが「暇」じゃないとはちょっと思えない。実際、自分がその担当捜査官だとしたらこんな仕事をやらされるのは「バカらしいなあ」と思っただろう。
この法律自体がのちに違憲判決を受けているのだが、そういう問題以前に単純所持、それも対象児童が存在しないフィクションの単純所持を取り締まれ、と主張する人々はそれが実際には「こういうこと」なんだ、という程度のことは考えているのだろうか。
個人的にはこんなことを法制化するのは警察の生活安全課のひとが気の毒だからやめたほうがいいと思うのだが。

もうひとつアメリカの例を挙げる。
現在アメリカではおよそ考えられないほどバカげた裁判が「児童保護」の名目の元で「現在進行形で」おこなわれている。
これが現在CBLDFがもっとも力を入れて反対キャンペーンをおこなっている「ゴードン・リー事件」だ。

2004年のハロウィーン、ゴードン・リー(Gordon Lee)のコミックショップ「レジェンド・オブ・ローマ(Legends, of Rome, GA)」はローマ市ダウンタウンでのハロウィーンイベントにフリーコミックスの配布で参加していた。このイベントで配布されたフリーコミックスの中にオルタナティブコミックス社が発行した2004年のフリーコミックブックデイ(訳注:アメリカのコミックショップが合同でおこなっている年一回参加出版社から提供される無料コミックブックを配布するイベント)用の『Alternative Comics』#2がたまたま紛れ込んでいた。このコミックブックはその日配布された数千冊のコミックブックのうちのたった一冊に過ぎない。それがたまたま未成年者の手に渡り、その両親が警察に不満を訴えた。
このコミックブックはオルタナティブ社のさまざまなコミックスからショートストーリーを集めたアンソロジーで、その中のひとつにニック・バートッツィ(Nick Bertozzi)が著名な画家ジョージ・ブラックとパブロ・ピカソの出会いを描いたグラフィックノベル『サロン(The Salon)』からのエキサープトが含まれていた。その8ページのストーリーのうち3ページに渡ってピカソはヌードで描かれている。正確にいえばそのストーリーのあいだ彼はずっとヌードである。ただ、このストーリーの中に性的な要素はない。
このコミックブックの誤配を知り、リーはその誤りを認め、公的な謝罪を何度も求められた。しかし、その謝罪は認められず、その後彼は逮捕された。
(「CBLDF- Articles: Gordon Lee: The Road To Trial」)

問題とされた『The Salon』はピカソやブラックらのアーティストグループ「サロン」を伝記的に描いたもので読書人からの批評的な評価はむしろ高く、題材的にいってもたとえば日本では「教育的」とされてもおかしくないものだ。
起訴理由は純粋に裸(それも野郎の)が描かれていたから。
まあ、Xメンだのタイタンズだのを期待してたに違いないもらった子どもが不満なのはわかるのだが、こんな「事件」が「児童への悪影響」を理由に起訴にまで発展するのは単に理解に苦しむ。しかも、「不当告訴」として起訴取り下げ判決が出てもなお細々した微罪をいいたてられ、三年以上続いているこの裁判はいまだ解決していない。
こういう事例を見るとアメリカの検察も「暇」だとしか思えない。

「児童保護」には国際協調が必要なのかもしれないが、本当にこういう価値観と協調したいのか、すべきなのか……その程度の疑義はなにがしかの主張をする前に持ったほうがよくはないのか。

なお児童ポルノ問題を含めアメリカにおける表現の自由憲法修正一条)に関しては「First Amendment Center」を参照されたい。

追記:
ン? リンクされてんな。しかし、オレは法律自体についてはほとんど言及してないんだが。
とりあえず2003年についてはこの辺ですか。
http://www.firstamendmentcenter.org/pdf/CRS.childporn1.pdf
http://www.firstamendmentcenter.org/pdf/CRS.childporn2.pdf
http://www.firstamendmentcenter.org/pdf/CRS.childporn.ob.3.pdf
http://www.firstamendmentcenter.org/pdf/CRS.childporn.ob.4.pdf