Péterfy Bori & Love Band『Hajolj bele a hajamba (Labamba)』


やっぱこれはおもしろいわ。
おそらくここを覗くひとの九分九厘までがまったく興味がないと思われるこのハンガリーシリーズだけど、調べれば調べるほどハンガリーポップカルチャー状況はおもしろい。
歴史的には89年の共産主義崩壊による体制変更があって急激に西側のポップカルチャー流入したわけだけど、共産主義政権下でも独自のマンガ文化があったようだし、なにより90年からのほんの二十年足らずで日本における60年代、70年代、80年代、90年代の40年くらいのポップの文脈が雪崩を打ったように流入し、それまでの大衆文化や伝統文化と結びついてメルティングポットのような状態をつくりだしている。
コミックスに関してはそのうち改めてエントリにしようと思っているが、音楽においてその混沌状態から生み出されたもっとも洗練された先鋭的な部分が先に紹介したふたつのバンド、ZAGARとNEOだとすると、このPéterfy Bori & Love Bandはより混沌の根っこに近いドロドロした部分をある意味で象徴したバンドだと思う。
すでにZAGAR「Wings of Love」のエントリで述べたようにPéterfy Bori(音は「ピテルフィ・ベリ」辺りか? 表記は日本同様、姓・名の順。もっともこれは芸名だが)は同曲にゲストシンガーとして参加した「アンダーグラウンドの歌姫たち」のひとりであり、この曲は彼女のリーダーバンドのデビューアルバム『Péterfy Bori & Love Band』からのシングル。歌詞がマジャール語なんでなにいってるかさっぱりわからんが、曲はデヴィッド・バーンのソロみたいなワールドミュージックっぽいニューウェーヴポップ。ベリ姉さんのオフビートなコスプレと最後全裸になっちゃうストリップが見られる変てこなビデオが強烈な印象を残す曲だが、じつはこのバンドの音楽性は姉さんのアングラ気質を10倍くらい稀釈してポップなパッケージにまとめたものだった。YoutubeでPVが見られるこのバンドの曲としては他に「Vámpír」があり、これもちょっとフォーキーなポップナンバーという感じのものだが、これに先行するキャリアのものすごさに比べるとえらく洗練されたものだといえる。
ベリ姉さんは本名Péterfy Borbála(音は「ピテルフィ・ベルバロ」かな? 英語読みで「バーバラ・ピテルフィ」ではないかと推察する)といい、本職(?)は劇団「Krétakör Színház」(英訳すると「chalk circle」)所属の女優である。ハンガリー版Wikipediaの姉さんのページと「Krétakör Színház」のプロフィールによれば88年から92年までは「Térszínház」92年から97年までは「Arvisura Company」という劇団に所属、「Béla Pintér Company」の立ち上げメンバーのひとりであり、00年から「Krétakör Színház」の中心メンバーのひとりになっている。これもハンガリー版Wikipédiaの記述によれば、この劇団はブレヒトの戯曲「コーカサスの白墨の輪」にちなんで名づけられたもので、「Krétakör Színház」の公式ページでは「舞台は何のためのものか?」を追求することをそのコンセプトに掲げている。
しかし、驚くべきはその舞台パフォーマンスである。検索かけたらえらく簡単に彼らの公演「W - Workers' Circus」から構成したビデオが見つかったのだが……これが「ものすごくショッキングな代物」だったのだ。いや、18歳以上のひとだけ(w リンクを開いてもらえばわかるが、「白塗りもせずに真っ裸だよ、このひとたち?」「なんか緊縛されたうえに黄色い液体を無理やり飲まされてるよ?」「トイレのうえですっぱの男女が腰振ってるよ?」……という感じ、この舞台の映像は公式サイトの「Gallery」ページでも見られるのだが、他の映像類もあわせて見て判断すると、この劇団、どうも黒テントクレイジーキャッツスターリン第三舞台電撃ネットワークをぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたようなパフォーマンスをやってるようなのだ。しかも公式サイトの情報ではほぼヨーロッパ全域で公演をおこなっていてじつはおそろしく評価が高い全欧レベルで有名な前衛演劇集団なのである。シルク・ド・ソレイユとか呼んでるんだから、日本のイベント屋さんも今度はぜひこの人たちを呼んでもらいたい(公演差し止めとか喰らいそうだが)。
ベリ姉さんは他にもAndrás Szökeという監督の映画によく出ているそうなのだが、これについては調べてないのでとりあえず置いとくとして、もうひとつ重要なのがLove Band以前に姉さんが参加していたバンド「Amorf Ördögök」がこれまたハンガリーのポップミュージック史においてエポックメイキングなバンドだったらしいことだ。
例によってハンガリー版Wikipediaの「Amorf Ördögök」から英訳経由のいんちき翻訳で引用すると「1994年に結成され2007年に解散したAmorf Ördögökはシャンソン、ディスコ、タンゴ、バルカントラッドミュージック、レゲエといった幅広い音楽スタイルをミックスしたバンドで、そのスタイルは「ゴチャマゼ」ポップと呼ばれる多くのフォロワーを生み出した。」こんな感じ。ベリ姉さんはこのバンドの結成時からのメンバーで「Krétakör Színház」のほうでもバンドをやってた(上の「ものすごくショッキングな代物」に出てくるバンドのことだろう)05〜06年を除いて中心メンバーとして活動、Love Bandのほうもこのバンドのメンバーが中心らしいので音楽性も「Amorf Ördögök」を継承したものだと見ていいだろう。実際このバンドのほうもYoutubeでかなりいろんな曲をライブ含めて聞けるのだが、じつに変なバンドである。姉さんは参加していないがラップを大胆に取り入れた「Fapados Űrutazás」なんかグルーチョ・マルクス(つーかマリオだな)みたいな髭オヤジがラップやってるだけでかなりおかしい(あきらかにパロディなんだがラップ自体はうまい(w)のに曲自体はポップである。もちろんもっとトラッド/フォーク寄りの曲もある(というかそっちのが多い)が、その辺が激しく入り混じって強烈に化学反応を起こしまくっているのが現在のハンガリーポップカルチャー状況なのだろう。
こういうほとんど野蛮ともいえる感覚は良くも悪くも日本やアメリカのようなポップカルチャー自体が爛熟し「出来上がっている」国の文化からは抜け落ちてしまっているものだろうと思う。そういう意味でPerfumeとかYuiとか(まあなんでもいいんだが)聴いてる普通の子にこの辺の音楽聴いてもらいたい気はするが、まあ無理か(つーかそれ以前にまともに日本語で情報手に入ったり、タワーやHMVで音源買えるようになってほしいんだがなあ)。
すでに自分が知ってる範囲のモノに偏差値つけてみせるほうが受けはいいんだろうけど、やっぱりオレはこういう「なんだかわからない」モノのほうが単に好きだな。
関連リンク:
My Space
http://www.myspace.com/peterfybori
公式ブログ
http://peterfybori.blog.hu/
Wikipedia(Hu):Péterfy Borbála
http://hu.wikipedia.org/wiki/P%C3%A9terfy_Borb%C3%A1la
Wikipedia(Hu):Krétakör Színház
http://hu.wikipedia.org/wiki/Kr%C3%A9tak%C3%B6r_Sz%C3%ADnh%C3%A1z
Wikipedia(Hu):Amorf Ördögök
http://hu.wikipedia.org/wiki/Amorf_%C3%96rd%C3%B6g%C3%B6k
Krétakör Színház公式サイト
http://www.kretakor.hu/